『文豪の凄い語彙力』「糖衣」の意味を知っていますか?書評

書評

ごきげんよう、なめくじです。先日、大学のレポート執筆の合間に休憩がてら読んだ『文豪の凄い語彙力』という本が私的にそそる内容でしたので、ここに感想を残しておこうと思います。文責:なめくじ

目次

言葉を見つける力

文章をしたためるという行為は現代人ならば、SNSに書き込む、レポートを書く、仕事相手にメールを作成するという風に、毎日のように何気なく行っていることでしょう。Twitterで私好みのイラストを発見したとき、分別もなく「エモい」といってRTをするのですが、その「エモい」という言葉をさらに具体的に、私が感受した感情を事細かに表現しようとすると、そのあまりに困難なことにもどかしくなって辟易してしまいます。そのような歯痒さと最も近しい距離にあって、苦闘の末に手練を身につけたのが文豪と呼ばれる人ではないでしょうか。その文豪たちが随所に散りばめた言葉の数々を本書は拾い、背景とそこから生じた意味を味わいます。4部構成で、

第1章 今日から使ってみたい文豪の言葉

第2章 知ってる言葉・知らない言葉の意外な話

第3章 あの名作がまた読みたくなる言葉

第4章 人生を彩る文豪の言葉づかい

となっています。どのような言葉が紹介されているのでしょうか。

糖衣、幸田あや『流れる』では

「どちら?」と、案外奥のほうからあどけなく舌ったるく云いかけられた。目見えの女中だと紹介者の名を云って答え、ちらちら窺うと、ま。きたないのなんの、これが芸者家の玄関か!

「え?お勝手口?いいのよ、そこからでいいからおはいんなさいな。」同じその声が糖衣を脱いだ地声になっていた。

幸田あや『流れる』

※目見えは、まだ正式に採用されていない奉公人で、試しに使われる人のことです。

糖という漢字の意味について解説によれば、「唐」は杵で脱穀している様子を表し、隣に「米」がついて、米を脱穀している様子となり、また米は貴重な甘味であったことから「甘み」を表す意味となったそうです。それに「衣」を従えて「甘い衣」、そこから「飲みやすくするために、丸薬・錠剤に施した糖分を含んだ甘い皮膜」として糖衣という言葉は使われています。

本文では外向きには甘ったるい声で本性に糖衣を被せているが、目見えと分かった途端に苦い本性を現した、という表現なのですね。似たような表現に「オブラートに包む」というのがありますが、こちらはボンタンアメなどの菓子に使われる様を想像してしまいますから、やはり「糖衣」という正鵠を射る表現には関心させらます。

太宰治『グッド・バイ』の一幕では

続いては、誰もが知る文豪太宰治が完結させることなく逝去した『グッド・バイ』から、虫食い部分を皆さんに考えてもらいたく存じます。

しかし、田島だって、もともとただものでは無いのである。闇商売の手伝いをして、一挙に数十万は楽にもうけるという、いわば目から鼻に抜けるほどの才物であった。
 キヌ子にさんざんムダ使いされて、黙って海容の美徳を示しているなんて、とてもそんな事の出来る性格ではなかった。何か、それ相当のお返しをいただかなければ、どうしたって、気がすまない。

太宰治『グッド・バイ』

さて、キヌ子の目に余る無駄遣いを許してしまう程の美徳、○○の美徳なんて持ち合わせていない!あなたならどのような形容を用いますか?

答えは……

海容の美徳です。

「海」という漢字の右側にある「毎」は「目が見えない」状態を表す漢字で、それにさんずいが加わり、到底果てを見ることができないほど広大な海を意味するようになりました。そのような海をも受け容れてしまうほど寛大、ということで海容です。私にはこのような日本語は思いつきそうにありません……

本稿では「糖衣」「海容」について私なりに紹介しましたが、『文豪の凄い語彙力』では遙かに詳しく様々な日本語について触れています。「的皪」「恪勤」「生中」「秀雅」……それらの言葉はいつの日かあなたが言い表したい言葉なのかもしれません。

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