【書評】今に不満がある大学生、社会人は読むべき『四畳半神話大系』『四畳半タイムマシンブルース』森見登美彦著

書評

ごきげんよう、なめくじです。全国の阿呆学生に愛読されたという森見登美彦著す『四畳半神話大系』が世に出て16年、変人阿呆の盛大な期待の下で続編『四畳半タイムマシンブルース』は出版されました。かくいう私も、発売日に書店で買ってはレポート提出と拮抗しつつ読了、こんにちその魅力を喧伝するに至りました。

未だ阿呆の門戸をくぐらざる初心者のために、『四畳半神話大系』がいかなる阿呆小説かもあわせて紹介させていただきたく存じます。ちなみに阿呆阿呆と口うるさいようですが、これは森見氏はじめ『私』『小津』『樋口師匠』『赤石さん』の面々に対する尊敬の念より生じますゆえどうかお許しくださいませ。

文責:なめくじ

※核心に迫るネタバレはしませんが、その辺の問題にセンシティブな読者はお引き取りくださいませ。

『四畳半神話大系』あらすじ

まずは簡単にあらすじと登場人物を引用で紹介します『四畳半タイムマシンブルース』の項目をご覧になりたい方は飛ばしてください。

 下鴨幽水荘。叡山出町柳裏にある下宿である。人から聞いた話によると幕末の混乱期に焼失して再建以後そのままであるという、窓から明かりが漏れていなければ廃墟同然、何も知らずにここを訪れた者は、九龍城に迷い込んだのかと思ってしまうというのも無理からぬ話だ。この今にも倒壊しそうな下宿に起居する私は、大学三回生の春までの二年間、実益のあることなど何一つしていないことを断言しておこう。

 私とて大学入学当初からこんな有様だったわけではない。高校時代は特にクラブ活動もせず、同じような非活動的な男達とくすぶっているばかりであったが、晴れてピカピカの大学一回生、友達百人できるのも悪くないと思っていた私は数々のサークルが個人の情報処理能力を遥かに凌駕する無数のチラシを差し出す大学の時計台へと足を向けた。そこには光り輝く純金製の未来が扉を開いているように思われた。そのどれを選んでも「薔薇色のキャンパスライフが、黒髪の乙女が、そして全世界が約束される」と思っていた私は、手の施しようのない阿呆だった・・・。

 もしあの時違うサークルを選んでいたならば、黒髪の乙女と薔薇色のキャンパスライフを送っていたに違いない!

https://dic.nicovideo.jp/a/四畳半神話大系

もしあの時違うサークルを選んでいたならば、黒髪の乙女と薔薇色のキャンパスライフを送っていたに違いない!その一言で時計台の針は逆回転を始め、現時刻は大学一回生、薔薇色のキャンパスライフへと心躍らせたあの日でありました。もう一人の『私(=それは先ほどの私とは別の私)』はそれから幾ばくのデジャヴを経験しますがやがてはまた、現状に不満を抱いてしまうのですが、ある時を境に『私(=それはまた別の私)』は四畳半無限迷宮へと迷い込むのでした。四畳半の隣には同じ四畳半が無限に続いているのですが、刮目するとどの四畳半も少しずつ異なっていて、どの四畳半も幸せそうに写るのでした……

『四畳半神話大系』感想

『四畳半神話大系』は何を語るのでしょうか。私は「自己を規定するのは不可能生である」ということです。「私」はどの四畳半に住う「私」も羨ましく思い、自分も――をしていたならば有意義な学生生活を送っていたに違いない、あの時――をしていたならばこんなみじめにはならなかった、自己を悲観せずにはいらないのですが、樋口師匠はこのような苦悩に対して、「可能性と言う言葉を無限定に使ってはいけない。我々という存在を規定するのは、我々がもつ可能性ではなく、我々がもつ不可能性である」

「可能性と言う言葉を無限定に使ってはいけない。我々という存在を規定するのは、我々がもつ可能性ではなく、我々がもつ不可能性である」

『四畳半神話大系』

「我々の大方の苦悩は、あり得べき別の人生を夢想することから始まる。自分の可能性という当てにならないものに望みを託すことが諸悪の根源だ。今ここにある君以外、ほかの何物にもなれない自分を認めなくてはいけない。君がいわゆる薔薇色の学生生活を満喫できるわけがない。私が保証するからどっしりかまえておれ」

『四畳半神話大系』

と投げ掛けます。

確かにその通りです。私はバニーガール にもパイロットにいくら憧れたって、それになることはできません。ならば、理想とあまりにかけ離れた自分に失望することは無意味であり、今できることは今ある自分を受け入れることに他なりません。

この解釈はちょっと残酷すぎはしないかと、読者の皆様方は思われるかもしれませんが、樋口師匠もとい森見氏のいう「ほかの何物にもなれない自分を認めなくてはならない」の真意は、今ある自分を受け入れた上で、自分の今できること、たとえば普段の自分ではとりそうにない講義をとってみるとか、気になる乙女に声をかけてみるということを実行に移すことで、ほんの少しずつ自分は変わっていく、ということをではないでしょうか。

『四畳半タイムマシンブルース』感想

さて、続編の『四畳半タイムマシンブルース』では突如として四畳半に現れたタイムマシンが、奔放な小津、樋口師匠、羽貫さんによって軽薄に扱われ、危うく世界が滅亡することになりますが、今作でも『四畳半神話大系』の筋は脈々と受け継がれています。

誰しも思わず目を背けてしまいたくなる過去はお持ちのことでしょう。もし時間を遡れさえするならば、あの時に私を殴って代わりに人生をやり直したい。私は飽きるほどそんなことを思います。ですが、仮にタイムマシンがあったとしても矛盾をきたさずに世界を変えることはできません。ここでもまた、「ほかの何物にもなれない自分を認めなくてはいけない」という言葉が思い出されます。辛辣であるようで温かみに満ちたメッセージではありませんか。

余談ですが、リモコンの百余年におよぶ壮大な(?)旅路も今作の妙味でもあります。が、それは物語の根幹にも関わる重要な要素ですからご自分の目でお確かめくださいませ。

参考

Amazon.co.jp

今作の原案ともなった『サマータイムマシン・ブルース』は上田誠氏のてがける戯曲です。その映画版が現在Amazonプライムにて(月500円払えば)無料で視聴可能です。アニメ『四畳半神話大系』や『ペンギン・ハイウェイ 』など森見登美彦氏の作品も多数視聴可能ですのでオススメです。

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