【経済思想概説】「重農主義」、そして「生産的階級」「不生産的階級」とは何か【4】

経済思想史概説

この記事で分かること

  • 重農主義とは何か
  • ケネーは何をしたのか
  • 生産階級、不生産階級とは何か

シリーズ経済思想概説では、経済思想に関する大学レベルの知識を体系的に解説していきます。最新記事の更新情報は、拙Twitterアカウント(@SubCulKusoOtoko)をご覧ください。

はじめに

16世紀から18世紀にかけて、次第に西ヨーロッパでは「重商主義」の考え方が国家を突き動かすようになります。ドーヴァー海峡を挟んで近接するイギリスとフランスは、互いにしのぎを削り合う貿易競争に明け暮れていました。しかし、産業の発展が目まぐるしいイギリスに対して、フランスは農業国、経済力の差は歴然としていて、どちらが貿易から差額利潤を得るのかは明白でした。この状況を見かねた財務総監ジャン=バティスト・コルベールは、急進的な重商主義改革を行うのですが、それはあまりにずさんで、特に農業関係者からは避難されます。この記事では、フランスでこのような時代背景から生まれた「重農主義」について解説します。

重農主義とは

重農主義physiocracy・・・富の唯一の源泉を農業であるとみなす立場

生粋の重商主義者コルベールは、意図的に穀物の価格を下げ(そうすることで、日々穀物を消費する労働者階級への賃金も減らせるようになる)たり、農業にだけ重税を課すなど、フランスを農業国から工業国へとできるだけ早く生まれ変わらせるために、手段を選びません。そのため、フランスの農業は著しく荒廃しました。

このような惨状を前にして、重農主義者は立ち上がります。彼らは第一に、重商主義者がありがたがる「貴金属こそが富である」という金言を否定しました。そうではなく、あらゆる生産物の源流にある農業こそが、富であると主張します。

あらゆる生産物の源流というのは、あらゆる生産物が何からできているのかを追っていくということです。追っていった先にあるのは、どのような場合でも農業生産物に行き着きます。

たとえば、木槌(木製のハンマー)を想定してください。単純化して考えると、木槌は材料となる木材と、私たち労働者が提供する労働力に分かれるはずです。言うまでもなく木材は自然から採取したものなので農業(今日では林業という方がふさわしいですが)生産物で、もう一方の労働力についても、実は農業生産物へと行き着きます。というのも、人間が働き、疲れて家に帰り、そして翌日また仕事場へと出ていくためには、労働によって失った生命力を回復(再生産)しなければなりません。そのために、労働者は農業生産物であるパンを食べます。

このように考えると、あらゆる生産物は農業なしには存在できないので、価値の源は農業であると、重農主義者は主張しました。

ケネー「生産階級」「不生産階級」

重農主義の代表的な論者に、フランソワ・ケネーが挙げられます。ケネーは、先に示したように、貿易差額による利潤を優先する一方で農業は迫害するコルベール主義を批判し、真の価値を生む農業から規制を撤廃するべきだと主張しました。その際に用いたのが「経済表」と呼ばれる、経済の循環表でした。

経済表のなかで、ケネーは階級を3つに分けます。

  1. 生産階級・・・農業従事者をさす。直接に農地を耕す仕事をする労働者だけでなく、彼らを雇用する農業資本家もここに含められる。
  2. 不生産階級・・・商業、工業に従事する労働者と資本家をさす。
  3. 地主・・・農業をするために土地を貸し、地代を受け取る人をさす。

この三つの階級で貨幣が循環し、その過程で富は再生産されるのだといいます。

重農主義の成果と批判

ケネーを主とした重農主義の成果は、無数の人々の間を行き来する貨幣を、単純化した図式で表現したことにあります。つまり、「経済における生産のありさまを、部分によってではなくその全体の循環構造によって示した」のです。これはそれ以前には誰もしなかったことでした。

さらに、重商主義では「ストックとしての貴金属が富である」としますが、ケネーは「フローとしての生産物が富である」と訂正した点を、アダム・スミスは評価します。

ストック・・・ある一時点において貯蔵された財の総量をさす。
フロー・・・一定の期間内で、流通した財の総量をさす。

他方でスミスは、生産物を農業だけに限定している点を批判しました。農業をする際には、鍬(くわ)や鋤(すき)など、さまざまな工業製品の手を借りなければなりません。これら工業製品も農業生産物と同様に、毎年生産されますから、フローとして数えられます。ですから、生産物には農業だけではなく工業も富に含まれるべきだとスミスは重農主義を批判しました。

参考:松原隆一郎「第1章市場の成立」『経済思想入門』ちくま学芸文庫、2016年。

次回の記事では、イギリス最大の社会科学者と言われるデヴィッド・ヒュームの経済思想について解説します。

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