「鋭い批判」をするために必要な3つの要素

読書生活の友

めいめいが学問の自由を謳歌する大学という場所では、じぶんが思ってもいなかった奇想天外なアイディアや、鼻につく何とも香ばしい考えを披瀝する人に出会います。そういう人に出会うと、何か一つ、じぶんも言ってやりたい気持ちになるものです。そこで、この短い記事では、誰かの考え、アイディア、思想に対して、「鋭い批判」をするための心得について解説します。

その前に留意してもらいたいのは、あくまで批判は、他者を言い負かしてやろうだとか、じぶんが気持ち良くなるためにするものではなく、双方がより良い成果物を得るために行うものだということです。

論破して気持ち良くなりたいというような下心の持ち主は、きっと大学では何一つ成果を残せないまま卒業し、誰からの賞賛も得られないまま孤独死する、きっとそんな奴です。では本題へ入ります。

①猟奇的に対象を知る

「鋭い批判」をするため第1ステップは、猟奇的なまでに対象について知ることです。

たとえば発表者が、「経済学の父アダム・スミスは今日のグローバルな自由貿易を賞賛しないだろう」と言ったとしましょう。何とも興味深い発表です。まさか重商主義に反対し、国家が干渉しない自由貿易を支持したアダム・スミスが、今日の自由貿易については反対するなんて!

そこであなたは、反論したくなるはずです。

「アダム・スミスは自由貿易を支持したなんて、高校生だって知っているぞ!」と。

ですが、知的センスに富んだ批判をするにあたっては、とんでもない過ちと言わざるを得ません。ここはグッと気持ちを抑えて、あなたにしてほしいことがあります。

それは対象について、知り尽くすという作業です。

この例でいえば、アダム・スミスについて知り尽くしましょう。他の人が見れば、ドン引きするであろうくらい知り尽くすのです。

おおよその具体的な量は、経験的にこれくらいが望ましいです。

  • 概説書1冊
  • 新書3冊
  • 専門書2冊

ほど読めば、その分野の専門家と話しても恥ずかしくないレベルになるでしょう。さて、この段階までくれば先ほど口をついて出そうになった質問が、とてつもなく素人じみていて、恥ずかしくなるような質問だったと気付くはずです。

その実、その分野についてあまり知らない人が思いつく質問は、95%くらいが精通した人なら鼻で笑うような内容です。学部生ならば、「かわいいもんだ」と周囲からも許してもらえるでしょうが、黒歴史が刻まれたことには変わりありません。ましてや大学院生の場合だと……目も当てられない怒号と痛罵が待ち受けているでしょう。

②対象を相対化する

対象について知り尽くせば、恥ずかしい質問をしてしまう事態を回避できると述べました。しかし、これだけではセンスのある批判者にはなれません。

センス溢れる批判者になるためには、もう一段階、相対化の作業を経る必要があります。

相対化とは、「他者について知る作業を通じて自己を把握する方法」です。ここでいう自己とは第1のステップで熱狂的に知り尽くした対象のことです。「じぶん」という意味には捉えないでください。それに対して、他者とは、ある観点からは自己と対立する存在をさします。アダム・スミスの例でいえば、『経済学の国民的体系』を著したフリードリッヒ・リストとは自由貿易もしくは産業の保護という観点から対立するでしょう。

ですがこれは一例に過ぎません。観点を変えれば、このような対立はいくらでも発見されます。

つまり、「鋭い批判」をするための道は、永遠に続いているということです。どの段階で、実際に行動に移して、「批判」をするのか、これは完全にあなたに委ねられています。しかし忘れてはならないのは、批判をするためには相対化の作業が絶対に必要だということです。他者について知る作業を通じて自己が把握されていない場合、無限にある思想のなかで自己がどの位置に占めているのかさえわかりません。ですから、相対化は必須です。

③地球平面論者を説得するためには?

最後に、格段に議論の質を高めるための秘訣をお教えします。それは、「相手に寄り添う」ということです。

知らない世界に飛び込んでみると、明らかにおかしな考えを持った人がうじゃうじゃいます。日本ではほとんど見かけませんが、ひとたび太平洋を飛び越えてアメリカへ行ってみると、案外地球が平面であると信じ込んでいる人が多くて驚かされます。

Wikipedeia「地球平面説」より引用、TO図

地球平面説、なんとも奇妙な主張をする人たちをみると、あなたは持ち前の知性で無知蒙昧なバカを黙らせてやりたくなるはずです。誰だってそうです。

しかし、この方法はあまり得策ではありません。

あなた(Aさん)が地球平面論者のBさんに説得を試みたとしましょう。Aさんは考えつく限りの「地球は平面である」ことの根拠を述べます。

Aさん「地球が平面なのは明らかです。アポロ11号で初めて月面着陸した宇宙飛行士たちも、地球が青い球体であると確認しました。また宇宙にある惑星が一つの例外もなく球体だという事実は、地球も球体だと教えてくれている」

Bさん「君は誤りだ。なぜなら僕は、船で湖に出て陸地を見ても陸地は水面に隠れないで見えた。それに僕の友人がスカイダイビングをしたときに見たって言ってたんだ。大地は平べったかったって」

このように、Aさんがみずからの主張の根拠を述べると、BさんはBさんの主張の根拠を述べました。これでは議論は永久に平行線をたどります。

ここでAさんの最初の問いかけを変えてみます。

Aさん「もし君がいうように、船で湖に出て陸地を見ても陸地は水面に隠れないで見えたなら、さらに遠くまで船で行っても陸地は見えるはずだよね?その実験をしてみてはどうだい?」

こうすると、Bさんはさらに実験を行うでしょう。その実験で陸地が見えたか否か、教えてくれるはずです。つまり、相手の前提に立ったうえで、「もし君がいう〇〇が正しいなら、▲▲も正しいはずじゃないか?」という対話の形式にすることで、お互いの主張を支える根拠を述べ合うよりも、中身のある議論が期待できます。

おわりに

この記事を読んでくださった方は、「鋭い批判」をするのが想像以上に困難に映ったかもしれません。ですが、「鋭い批判」ができる人は全員この準備を怠っていないのです。

・対象について知り尽くす

・対象を相対化する

・相手の前提に立って批判する

この3つがきっとあなたの知的探求を実り多きものにしてくれるでしょう。それではごきげんよう。

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